民法第485条(弁済の費用)の解説

条文

民法 > 第三編 債権 > 第一章 総則 > 第五節 債権の消滅 > 第一款 弁済 > 第一目 総則

(弁済の費用)
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

明治31年(1898年)民法制定時の条文

第四百八十五条 弁済ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ行為ニ因リテ弁済ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担ス

解説

趣旨

民法485条は、弁済の費用(債務の履行に要する費用)が原則として債務者の負担となることを示した規定です。

ただし、次の場合には、弁済の費用が債務者の負担ではなく債権者の負担となります。

  • 債権者と債務者の間に、別段の意思表示(民法485条とは異なる定め・特約)がある場合
  • 債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させた場合においての、その増加額

弁済の費用が原則として債務者の負担となる理由は、債務者の義務に含まれていると考えられるからです。

「弁済の費用」の例

  • 銀行振込手数料・送金手数料・為替手数料
  • 債務者の交通費・宿泊費
  • 目的物を輸送する際の運送費・荷造費
  • 目的物を輸出入する際の関税
  • 債権譲渡の通知費(例えば、債権譲渡通知書の郵送費)
  • 登記・登録費用(判例と学説で争いあり)

不動産売買の際の登記費用

不動産売買の際の登記に要する費用について、「弁済の費用」であるかどうかについては、判例と学説で争いがあります。

大審院の判例(大判大正7年11月1日民録24輯2103頁)では、不動産売買の際の登記に要する費用を「売買契約に関する費用」(民法558条)として、買主と売主双方が等しい割合で負担とするものと解しています。それに対し、学説では「弁済の費用」として売主(目的不動産引渡義務の債務者)の負担とすべきとの見解が有力です。

なお、実際の不動産取引では、登記費用は買主(目的不動産引渡義務の債権者)の負担とするのが慣行となっています。

売買契約に関する費用

売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担します(民法558条)。民法558条は、原則として、売買以外の有償契約について準用されます(民法559条)。

売買契約に関する費用の例としては、次のものが挙げられます。

  • 目的物の評価に要した費用
  • 契約書の作成費
  • 公正証書の作成に要した費用

債権者の受領遅滞により弁済の費用が増加した場合

債権者の受領遅滞により弁済の費用が増加した場合は、民法第485条ただし書の「債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたとき」に該当し、増加した費用は債権者の負担となります。

なお、このことは、平成29年(2017年)の民法改正により、413条2項で明文化されました。

参考文献

潮見佳男(2010)『債権総論〔第3版〕』信山社出版

潮見佳男(2020)『債権総論〔第5版補訂〕』信山社出版

松岡寿一・中田邦博(2020)『新・コンメンタール 民法(財産法) 第2版』弘文堂

我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明(2022)『第8版 我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―』日本評論社

タイトルとURLをコピーしました