商法第1条(趣旨等)の解説

条文

商法 >> 第一編 総則 >> 第一章 通則
(趣旨等)
第一条
1 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。

解説

商法とは何か

商法1条1項は、商法(商法典)が商人の営業、商行為その他商事について定めた法律であることを宣言しています。

商法典とは

商法典とは、「商法」という名称を付された法律をいいます。形式的意義の商法ともいわれます。

商事に関する法の適用順序

商事(企業活動)に対しては、商法商慣習民法という優先順位で、法が適用されます。

商慣習(商慣習法)について

商法1条2項にいう「商慣習」にあたるためには、単に慣習があるというだけでは足りず、その慣習が法的確信を伴う(法規範として認められる程度に至ったと認められる)必要があります。

法規範性が認められた慣習を「商慣習法」といいます。

商慣習法は、訴訟(裁判)においては、訴訟当事者が立証責任を負うものではなく、裁判官が、法律の場合と同様に、職権で自ら探知し適用すべきものです。

商慣習法の例

商慣習法として判例上認められた例は、次のとおりです。

  • 白地手形の流通(大判大15・12・16)
  • 白紙委任状付記名株式の譲渡(大判昭19・2・29)
  • 再保険の場合に再保険金を受領した元受保険者による損害賠償請求権の行使(大判昭15・2・21)

なお、慣習にまで至らないが商慣習に準ずるものとして一定の効力を有する「準商慣習」という概念を認めた判決があります(名古屋地判昭48・11・2)。

商慣習法と民法の関係

商慣習法は、民法に規定がない場合のみならず、民法に規定がある場合にも、民法に優先して適用されます。

商法3条1項は、法の適用に関する通則法3条(慣習法には制定法を改廃する効力を認めない趣旨を定めた規定)の例外を定める規定といえます。

法の適用に関する通則法
(法律と同一の効力を有する慣習)
第三条 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。

商慣習法が民法に優先して適用される趣旨は、企業活動に対しては民法よりも商慣習を適用した方が合理的であるためです。

商慣習法と商慣習

商慣習法と商慣習を区別する場合、商慣習法は法規範性が認められた慣習のことを意味し、商慣習は法規範性が認められない事実たる慣習のことを意味します。

旧商法の「商慣習法」と新商法の「商慣習」

平成17年(2005年)の商法改正前の商法1条では、次のとおり「商慣習法」という文言を用いていました。

第一条 商事ニ関シ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習法ヲ適用シ商慣習法ナキトキハ民法ヲ適用ス

平成17年(2005年)の商法改正で「商慣習法」という文言が「商慣習」に改められたことを根拠として、商法1条2項の「商慣習」には、商慣習法のみならず、法規範性が認められない事実たる慣習も含まれるとする見解があります。

しかし、この見解は妥当ではありません。なぜなら、「商慣習法」という文言が「商慣習」に改められた理由は、法の適用に関する通則法3条の文言に一致させるためだからです。

したがって、旧商法の「商慣習法」と現在の商法の「商慣習」の意味は同じである、と解されます。

商慣習法ではない商慣習は民法に優先するか

商慣習法ではない商慣習は、当事者がそれに従う意思を有している限り、民法の任意規定に優先するのは当然です(民法92条)。

しかし、民法の強行法規(公序良俗)に反する商慣習は、認められません(民法3条)。

ちなみに、民法の強行法規(公序良俗)に反する商慣習法は認められるのかという疑問がわき起こる人がいるかもしれません。しかし、そもそも、公序良俗に反する商慣習に法規範性が認められるはずがないので、「民法の強行法規(公序良俗)に反する商慣習法」自体が存在しません。






商法総則の条文解説一覧はこちらです。

第二編 商行為

第一章 総則

第501条(絶対的商行為)
第502条(営業的商行為)
第503条(附属的商行為)
第504条(商行為の代理)
第505条(商行為の委任)
第506条(商行為の委任による代理権の消滅事由の特例)
第507条(対話者間における契約の申込み)
第508条(隔地者間における契約の申込み)
第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
第510条(契約の申込みを受けた者の物品保管義務)
第511条(多数当事者間の債務の連帯)
第512条(報酬請求権)
第513条(利息請求権)
第514条(商事法定利率)
第515条(契約による質物の処分の禁止の適用除外)
第516条(債務の履行の場所)
第517条(指図債権等の証券の提示と履行遅滞)
第518条(有価証券喪失の場合の権利行使方法)
第519条(有価証券の譲渡方法及び善意取得)
第520条(取引時間)
第521条(商人間の留置権)
第522条(商事消滅時効)
第523条 削除

第二章 売買

第524条(売主による目的物の供託及び競売)
第525条(定期売買の履行遅滞による解除)
第526条(買主による目的物の検査及び通知)
第527条(買主による目的物の保管及び供託)
第528条

第三章 交互計算

第529条(交互計算)
第530条(商業証券に係る債権債務に関する特則)
第531条(交互計算の期間)
第532条(交互計算の承認)
第533条(残額についての利息請求権等)
第534条(交互計算の解除)

第四章 匿名組合

第535条(匿名組合契約)
第536条(匿名組合員の出資及び権利義務)
第537条(自己の氏名等の使用を許諾した匿名組合員の責任)
第538条(利益の配当の制限)
第539条(貸借対照表の閲覧等並びに業務及び財産状況に関する検査)
第540条(匿名組合契約の解除)
第541条(匿名組合契約の終了事由)
第542条(匿名組合契約の終了に伴う出資の価額の返還)

第五章 仲立営業

第543条(定義)
第544条(当事者のために給付を受けることの制限)
第545条(見本保管義務)
第546条(結約書の交付義務等)
第547条(帳簿記載義務等)
第548条(当事者の氏名等を相手方に示さない場合)
第549条(当事者の氏名等を相手方に示さない場合)
第550条(仲立人の報酬)

第六章 問屋営業

第551条(定義)
第552条(問屋の権利義務)
第553条(問屋の担保責任)
第554条(問屋が委託者の指定した金額との差額を負担する場合の販売又は買入れの効力)
第555条(介入権)
第556条(問屋が買い入れた物品の供託及び競売)
第557条(代理商に関する規定の準用)
第558条(準問屋)

第七章 運送取扱営業

第559条(定義等)
第560条(運送取扱人の責任)
第561条(運送取扱人の報酬)
第562条(運送取扱人の留置権)
第563条(介入権)
第564条(物品運送に関する規定の準用)
第565条 削除
第566条 削除
第567条 削除
第568条 削除

第八章 運送営業

第一節 総則

第569条

第二節 物品運送

第570条(物品運送契約)
第571条(送り状の交付義務等)
第572条(危険物に関する通知義務)
第573条(運送賃)
第574条(運送人の留置権)
第575条(運送人の責任)
第576条(損害賠償の額)
第577条(高価品の特則)
第578条(複合運送人の責任)
第579条(相次運送人の権利義務)
第580条(荷送人による運送の中止等の請求)
第581条(荷受人の権利義務等)
第582条(運送品の供託及び競売)
第583条(運送品の供託及び競売)
第584条(運送人の責任の消滅)
第585条(運送人の責任の消滅)
第586条(運送人の債権の消滅時効)
第587条(運送人の不法行為責任)
第588条(運送人の被用者の不法行為責任)

第三節 旅客運送

第589条(旅客運送契約)
第590条(運送人の責任)
第591条(特約禁止)
第592条(引渡しを受けた手荷物に関する運送人の責任等)
第593条(引渡しを受けていない手荷物に関する運送人の責任等)
第594条(運送人の債権の消滅時効)

第九章 寄託

第一節 総則

第595条(受寄者の注意義務)
第596条(場屋営業者の責任)
第597条(高価品の特則)
第598条(場屋営業者の責任に係る債権の消滅時効)

第二節 倉庫営業

第599条(定義)
第600条(倉荷証券の交付義務)
第601条(倉荷証券の記載事項)
第602条(帳簿記載義務)
第603条(寄託物の分割請求)
第604条(倉荷証券の不実記載)
第605条(寄託物に関する処分)
第606条(倉荷証券の譲渡又は質入れ)
第607条(倉荷証券の引渡しの効力)
第608条(倉荷証券の再交付)
第609条(寄託物の点検等)
第610条(倉庫営業者の責任)
第611条(保管料等の支払時期)
第612条(寄託物の返還の制限)
第613条(倉荷証券が作成された場合における寄託物の返還請求)
第614条(倉荷証券を質入れした場合における寄託物の一部の返還請求)
第615条(寄託物の供託及び競売)
第616条(倉庫営業者の責任の消滅)
第617条(倉庫営業者の責任に係る債権の消滅時効)
第618条から第683条まで 削除


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