商法第501条(絶対的商行為)の解説

条文

商法 >> 第二編 商行為 >> 第一章 総則
(絶対的商行為)
第五百一条
次に掲げる行為は、商行為とする。
一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券有償取得又はその取得したもの譲渡を目的とする行為
二 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
三 取引所においてする取引
四 手形その他の商業証券に関する行為

解説

絶対的商行為とは

絶対的商行為とは、商人であるか否かを問わず、また営業として行うか否かを問わず商行為となる行為をいいます。

商法501条は、絶対的商行為として次の4種類を限定列挙しています。

  • 投機購買とその実行行為(501条1号)
  • 投機売却とその実行行為(501条2号)
  • 取引所においてする取引(501条3号)
  • 手形その他の商業証券に関する行為(501条4号)

これらの行為は、行為の客観的性質から営利性が強いと判断されるため、絶対的商行為とされています。

投機購買とその実行行為(501条1号)

投機購買とその実行行為とは、動産・不動産・有価証券を安く買って(投機購買)、高く売ることで(実行行為)、その差額を利得することを目的とする行為です。

投機意思の存在時点

利益を得て譲渡する意思(投機意思)は、物を取得する時点であれば足ります。物を取得した後の実行段階で投機意思を失ってしまい、物を無償で譲渡したり自分で使用したりしたとしても、取得行為は商行為性は否定されません。

農業者・製造業者の行為

原始的に取得した物を売却する行為(農業者の行為)は、「投機購買とその実行行為」に該当しません

他から取得した物を製造加工して売却する行為(製造業者の行為)は、「投機購買とその実行行為」に該当します(大判昭4・9・28)。

投機売却とその実行行為(501条2号)

投機売却とその実行行為とは、買主を見つけて動産・有価証券を先物(未来の売買)として高く売ることを約束し(投機売却)、売買の目的物である動産・有価証券を安く買い入れることで(実行行為)、その差額を利得することを目的とする行為です。

例えば、ある会社の株式100株を1か月後に150万円で売ると約束し(投機売却)、株式100株を100万円で仕入れ(実行行為)、50万円の差額を得ることです。

1号と2号の違い

501条2号の目的物に、不動産は含まれておりません。その理由は、不動産は個性的な物(不代替物)であり、供給契約締結後に取得できるかどうかは不確実だからです。

取引所においてする取引(501条3号)

取引所とは、代替性ある動産または有価証券について、一定の時間内に一定の場所で一定の方式に従って大量的になされる場所をいいます。

具体的には、商品取引所と金融商品取引所(証券取引所)のことです。

手形その他の商業証券に関する行為(501条4号)

商業証券とは

商業証券とは、広く商取引の対象となる有価証券、つまり広く有価証券一般を指すものと解されます(近藤光男(2013)『商法総則・商行為法(第6版)』有斐閣)。

例えば、次のものが含まれます。

  • 支払証券(手形、小切手)
  • 物品証券(貨物引換証、船荷証券、倉庫証券)
  • 投資証券(株券、新株予約権証券、債券など)

「関する行為」の意義

「関する行為」とは、証券上になされる行為(証券上の行為、証券的行為)をいいます。例えば、手形の振出し、裏書、保証、引受けなどです。

証券も目的とする行為、例えば証券の売買・交換・貸借・寄託などは含まれません。証券の売買は、501条1号・2号で商行為とされています。






商行為法の条文解説一覧はこちらです。

第二編 商行為

第一章 総則

第501条(絶対的商行為)
第502条(営業的商行為)
第503条(附属的商行為)
第504条(商行為の代理)
第505条(商行為の委任)
第506条(商行為の委任による代理権の消滅事由の特例)
第507条(対話者間における契約の申込み)
第508条(隔地者間における契約の申込み)
第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
第510条(契約の申込みを受けた者の物品保管義務)
第511条(多数当事者間の債務の連帯)
第512条(報酬請求権)
第513条(利息請求権)
第514条(商事法定利率)
第515条(契約による質物の処分の禁止の適用除外)
第516条(債務の履行の場所)
第517条(指図債権等の証券の提示と履行遅滞)
第518条(有価証券喪失の場合の権利行使方法)
第519条(有価証券の譲渡方法及び善意取得)
第520条(取引時間)
第521条(商人間の留置権)
第522条(商事消滅時効)
第523条 削除

第二章 売買

第524条(売主による目的物の供託及び競売)
第525条(定期売買の履行遅滞による解除)
第526条(買主による目的物の検査及び通知)
第527条(買主による目的物の保管及び供託)
第528条

第三章 交互計算

第529条(交互計算)
第530条(商業証券に係る債権債務に関する特則)
第531条(交互計算の期間)
第532条(交互計算の承認)
第533条(残額についての利息請求権等)
第534条(交互計算の解除)

第四章 匿名組合

第535条(匿名組合契約)
第536条(匿名組合員の出資及び権利義務)
第537条(自己の氏名等の使用を許諾した匿名組合員の責任)
第538条(利益の配当の制限)
第539条(貸借対照表の閲覧等並びに業務及び財産状況に関する検査)
第540条(匿名組合契約の解除)
第541条(匿名組合契約の終了事由)
第542条(匿名組合契約の終了に伴う出資の価額の返還)

第五章 仲立営業

第543条(定義)
第544条(当事者のために給付を受けることの制限)
第545条(見本保管義務)
第546条(結約書の交付義務等)
第547条(帳簿記載義務等)
第548条(当事者の氏名等を相手方に示さない場合)
第549条(当事者の氏名等を相手方に示さない場合)
第550条(仲立人の報酬)

第六章 問屋営業

第551条(定義)
第552条(問屋の権利義務)
第553条(問屋の担保責任)
第554条(問屋が委託者の指定した金額との差額を負担する場合の販売又は買入れの効力)
第555条(介入権)
第556条(問屋が買い入れた物品の供託及び競売)
第557条(代理商に関する規定の準用)
第558条(準問屋)

第七章 運送取扱営業

第559条(定義等)
第560条(運送取扱人の責任)
第561条(運送取扱人の報酬)
第562条(運送取扱人の留置権)
第563条(介入権)
第564条(物品運送に関する規定の準用)
第565条 削除
第566条 削除
第567条 削除
第568条 削除

第八章 運送営業

第一節 総則

第569条

第二節 物品運送

第570条(物品運送契約)
第571条(送り状の交付義務等)
第572条(危険物に関する通知義務)
第573条(運送賃)
第574条(運送人の留置権)
第575条(運送人の責任)
第576条(損害賠償の額)
第577条(高価品の特則)
第578条(複合運送人の責任)
第579条(相次運送人の権利義務)
第580条(荷送人による運送の中止等の請求)
第581条(荷受人の権利義務等)
第582条(運送品の供託及び競売)
第583条(運送品の供託及び競売)
第584条(運送人の責任の消滅)
第585条(運送人の責任の消滅)
第586条(運送人の債権の消滅時効)
第587条(運送人の不法行為責任)
第588条(運送人の被用者の不法行為責任)

第三節 旅客運送

第589条(旅客運送契約)
第590条(運送人の責任)
第591条(特約禁止)
第592条(引渡しを受けた手荷物に関する運送人の責任等)
第593条(引渡しを受けていない手荷物に関する運送人の責任等)
第594条(運送人の債権の消滅時効)

第九章 寄託

第一節 総則

第595条(受寄者の注意義務)
第596条(場屋営業者の責任)
第597条(高価品の特則)
第598条(場屋営業者の責任に係る債権の消滅時効)

第二節 倉庫営業

第599条(定義)
第600条(倉荷証券の交付義務)
第601条(倉荷証券の記載事項)
第602条(帳簿記載義務)
第603条(寄託物の分割請求)
第604条(倉荷証券の不実記載)
第605条(寄託物に関する処分)
第606条(倉荷証券の譲渡又は質入れ)
第607条(倉荷証券の引渡しの効力)
第608条(倉荷証券の再交付)
第609条(寄託物の点検等)
第610条(倉庫営業者の責任)
第611条(保管料等の支払時期)
第612条(寄託物の返還の制限)
第613条(倉荷証券が作成された場合における寄託物の返還請求)
第614条(倉荷証券を質入れした場合における寄託物の一部の返還請求)
第615条(寄託物の供託及び競売)
第616条(倉庫営業者の責任の消滅)
第617条(倉庫営業者の責任に係る債権の消滅時効)
第618条から第683条まで 削除


商法


トップへ戻る

タイトルとURLをコピーしました